大阪地方裁判所 昭和54年(行ク)45号 決定
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
二1 一件記録によれば、申立人は、懲役受刑者として現在大阪刑務所において服役中のものであるが、同刑務所第一区第三舎第七房において独居拘禁中のところ、昭和五四年八月二二日午前九時五分頃、取調のため同舎第六房に独居拘禁中の姜秀夫に対し、房越しに、「姜さん辛抱しいや」と話しかけ、姜が「誰れ」と聞き返すや、「長谷川や」と返答して通声したとの理由により、同月二八日被申立人より、軽屏禁一〇日文書図画閲読禁止併科の懲罰の言渡を受けたこと、そして本件申立及び本案の訴の準備のため右懲罰の執行が停止され同年九月四日懲罰の執行が開始され、現在執行中であることが認められる。
2 そこで本案についての理由の有無につき判断する。
(1) 申立人は、受刑者生活心得によつても通声は懲罰の対象とされておらず、又従来通声により軽屏禁を科せられた事例はない旨主張する。
ところで一件記録によれば、大阪刑務所受刑者生活心得には規律違反行為があつた人には懲罰その他の処分をすることがある旨定め、室内動作の(7)において「他の室の人と交談したり、物を授受したりしないこと」と定め、遵守事項の一の4において「許可なく又は許可された方法によらず被収容者、外部の者又は外部の機関と交通し、又は交通することを企ててはならない」旨、又同七の40において「別に定める交談を禁じられている時又は場所においては、みだりに話をしてはならない」旨定めており、前記受刑者生活心得によつて通声が懲罰の対象となる旨定められていること、又昭和五四年一月から同八月末までに通声により懲罰処分がなされた事例が二七件あり、そのうち軽屏禁を科せられた事例が二四件であることが認められる。
よつてこの点についての申立人の主張は失当である。
(2) 申立人は、監獄法五九条、六〇条は、憲法三一条、三二条、三七条に違反するので本件懲罰処分は違憲無効である旨主張する。
しかし懲罰は、監獄の秩序を維持するために科せられる行政罰であり、刑罰とはその本質を異にしている。したがつて厳格な意味での罪刑法定主義が要求されるものではなく、監獄法が懲罰の対象となる行為を具体的に規定していないからといつて直ちに憲法三一条に違反するものとはいえない。又懲罰が行政罰であることからすれば、懲罰手続において、訴追機関と審判機関とが分離されておらず、又被懲罰者に対し弁護人を付さなかつたとしても憲法三一条、三二条、三七条に違反するものではない。
又監獄法施行規則一五九条は、懲罰の効果をより高めるため、その言渡は監獄の長たる所長がなすのが望ましいとの見地から、定められたものであり、必ずしも、所長自ら言渡すことを懲罰処分の成立乃至は効力発生のための要件としたものではないものと解されるから、申立人主張の如く被申立人に代り井上区長が本件懲罰処分の言渡をしたとしても本件懲罰処分の効力が左右されるものではない。
(3) 申立人は、軽屏禁の執行にあたり戸外運動、入浴を禁止していることは監獄法に違反し、又憲法三六条に違反する旨主張する。
ところで被申立人は、軽屏禁の執行期間中は原則として、(1)入浴は、懲罰執行開始後の一般受刑者の三回目の入浴日(一般受刑者には週二回の入浴の機会が与えられる)に初回の入浴を行なわせ、以後三回目毎に個別に行ない、入浴日に入浴させないときは温湯を給与し拭身させる(2)運動は一〇日毎に一回個別に行なう旨主張しており、したがつて軽屏禁の執行期間中は入浴、戸外運動については右主張のとおり制限されているものと考えられる。
懲罰は、監獄の秩序を維持するために科せられる不利益処分であるからその種類にしたがつて何らかの制約を課せられるのは性質上当然のことである。そして軽屏禁は、受罰者を罰室内に昼夜屏居せしめることを内容とする懲罰であり(監獄法六〇条二項)、その性質上、戸外運動や入浴を或程度制限することも妨げないものと解さわる、もつとも戸外運動や入浴が、健康保持のため、必要なことは勿論であるが、前記程度の制限をもつて受罰者の健康に著しく支障をきたすものとは認めがたく、又軽屏禁の執行の前後執行中の時々に監獄医が健康診断をすべき旨定め(監獄法施行規則一六〇条二項、一六一条、一六三条)受罰者の健康管理に充分な配慮がなされている。以上によれば、戸外運動、入浴についての前記程度の制限をもつて憲法三六条ないしは監獄法に違反するものとはいえない。
(4) 申立人は、本件懲罰処分は恣意的になされたものである旨主張する。
しかし、本件懲罰処分の理由となつた前記1項認定の通声行為を申立人が行なつたことは申立人において自認するところであり、又一件記録によつても申立人が右通声行為を行なつたことが認められ、通声が規律違反行為として懲罰の対象となり、従来から通声により軽屏禁に処せられた事例が多数存在することも前記(1)認定のとおりである。そして他に本件懲罰処分が恣意的になされたと認めるに足る資料もないから、この点についての申立人の主張は理由がない。
(荻田健治郎 寺崎次郎 市川正巳)